危険化するプロロード界

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最近のプロロードレース界は以前に比べてかなり危険になっているという記事を読んだ。私自身は長らくプロロードレースには興味がなかったのだが、記事を読んでなるほどなあと納得できたことが多かったので、私なりに感じたことも含めて紹介したいと思う。

危険になっていることを示すこととして、落車が増加傾向にあるという事実があるようだ。ではなぜ危険になっているかというと、まずは機材面との変化だと言う。

その一つにディスクブレーキの普及があるという。ディスクブレーキというとリムブレーキよりクイックに効いたり、特に雨天時の制動力ではリムブレーキよりはるかに優れていることは我々一般人でも、使ったことがあれば分かると思う。また、小さな力でブレーキを作動できるので、長い下りなどでは手や指の疲れがかなり軽減され、例えば、力の弱い女性ライダーにとっても大きなメリットがあり安全面に大きく寄与するだろうことは容易に想像できる。あれ? ディスクブレーキのほうが安全性が高まりそうじゃないか。。と思うわけだ。ところが面白いのはこの制動能力の高さがもたらしているリスクだ。

自転車ロードレースの場合必ず集団走行が生まれる。問題は高速で集団走行するときに、非常にクイックによく効くディスクブレーキが何をもたらすかという点だ。高速走行の集団で前を走る選手がディスクブレーキを掛けたら、後ろを走る選手は即座に反応して同様にブレーキをかけなければならない。クイックに効くがゆえに後ろを走る選手は以前より即座に反応して減速する必要がある。リムブレーキだとブレーキをかけてもディスクブレーキほど即座に効かず制動距離が長くなる、ところがディスクブレーキとなると敢えて言えば急ブレーキのような効果があるので、後ろの選手が反応しずらくなるというのだ。大集団となれば先頭がブレーキを掛けたら後ろに続く選手は即座にそして連鎖的にブレーキをかけなければならない。リムブレーキでも同じことだが、ディスクブレーキのより瞬時に自転車を止める性能にライダーが十分に適応できなくなるため、追突事故を引き起こす可能性を高めているというのだ。

機材面に関して言えばディスクブレーキだけではない。フレーム、ホイール、ハンドルなどの機材面のエアロ化が大きく進みよりスピードが出るバイクになっていることも大きく影響している。また、より小さな力で高速を実現できることで、最近では極端に大きなフロントギヤを普通のレースで使う傾向にもあるという。このように機材による高速化が進んでいる状況でディスクブレーキが使用されるという2重のリスクが危険性をさらに高めているというわけだ。

だが、実は機材面よりもっと大きなリスクがあるという。それは何かというとライダー自身のスキルに原因があることだ。現代のプロ選手は以前ほどチームによる集団走行の練習が減っているとのこと。チームによる集団走行の練習が減ればそれだけ実践における集団走行時のブレーキング技術に十分に適応できない可能性は想像できる。より高速化すれば、より高度な自転車のコントロール技術が求められるわけだ、しかし、自転車はどんどん高速化するが、それに伴いライダーの技術が向上するどころか衰退しているような現状があるようだ。

ではなぜ、最近のプロ選手はチームによる集団走行の練習が減ってきているのかといえば、その理由はどうもパワーメータによるトレーニングの普及によるところが大きいらしい。要するに、パワーメータがあれば個人でもそれなりに効率的な練習ができてしまうという考えだ。パワーメータを取り入れた練習といえばもう一般のホビーレーサーにも浸透しているから一般人にも現状を十分理解できるだろう。

おまけに室内トレーニング環境もパワーメータと共に整っているから、プロであっても、雨や雪が降ったら外で走ることはなくなるようだ。機材のおかげで悪天候であれば室内で練習が完結できてしまうのは快適さの点では間違いなく良いこと。しかし、実際のレースとなれば雨や雪関係なく行われるわけで、やはり悪天候も想定した実走練習ができなければ、本番のレースでのリスクも高まるだろうということは想像できる。

昔のプロロード選手は年間4万キロも走ったと聞いたことがある。おそらくほとんどがロードだろう。ところが、現代のプロロード選手は平均して2万4千キロだという。ロードと室内を含めてのことなのか不明だが、総距離にして昔の6割しか走らないといとすれば、同じプロロード選手なのに相当な減りようだ。

自転車ロードレースというと危険なスポーツという印象を持つ人が多いかもしれない。高速走行するのに、薄いジャージとバイクパンツをまとっているだけだ。今でこそヘルメットは被るようになったけどいざ落車したら大けがをする可能性が高いと誰もが思うだろう。

ところが私が一番好きだったころのヨーロッパプロロードレース界ではヘルメットなどほとんど被っていなかった。真夏に走るのにヘルメットなんて被ってられるかというのが選手たちの大多数の意見だった。実際ツールドフランスは始まって90年以上たっても死亡事故さえ起きなかった。アルプスやピレネーをで時速100㎞ででダウンヒルしようが、時速70㎞オーバーのスピードでゴールスプリントしようが、皆ノーヘルだ。

ツールドフランスで最初に死亡事故が起きたのは1995年だった。私も実際レースの様子をテレビやニュースで見ていた頃だったのでよく覚えている。ファビオ・カサルテッリというオリンピックチャンピオンで有望株の若手が山岳の下りで発生した落車事故に巻き込まれ亡くなった。この事故の影響もあってなのか、90年代後半からはヘルメット着用化がプロ選手の間でも広がったと思う。

留意してほしい点は90年以上もの間(実際レース未開催の年もあったので開催後80回くらいまでは)、世界最大の自転車ロードレースでスで死亡事故が起きなかったことだ。ヘルメットなど被っていなかったのだからヘルメットがあるからより安全になるというわけでもなさそうだ。

ヘルメット有り無しは重要ではないが、結局危険か危険ではないかは自転車を操る選手たちによるところが大きいのだと思う。時速100㎞付近の速度でダウンヒルしてもリムブレーキで何ら問題はなかったのだ。雨が降っている長い下りのレースでは滑りやすく、リムブレーキの効き目はかなり弱くなる、それでも各選手がそう言った天候下で機材性能の限界や危険回避する術を熟知して正確に実践できれば安全は担保されるのだろうと私は思う。

これは個人的な好みなのだろうけど、やっぱり昔のように雨が降る中ずぶ濡れになりながら、また、雪が降り凍てつく環境下でトレーニングを積むプロ選手の姿が好きだ。時には厳しい自然環境にも立ち向かい黙々とトレーニングを積む。自転車ロードレース自体自然の中で行わるものだし、あらゆる気象条件に適応する必要がある。宮沢賢治じゃないけど、「雨ニモマケズ風ニモマケズ雪ニモ夏ノ暑サニモ・・」のように泥臭があるからこそレースで勝利した時の美しさもあるのかなあと思う。そういった泥臭さの積み重ねが結果としてプロレース界での安全性も担保するものなんだろうと思う。プロサイクリストが天候に左右されず厳しいトレーニングを積む姿が見られたからこそ、ヨーロッパでは自転車ロード選手が尊敬されるべき存在だったと聞いたことがある。現代のようにスマホ片手に部屋から窓の外を眺めながら、雨が降りそうだから今日は室内練習にしよう、とつぶやくプロ選手の姿などあまり見たくないものだ。

ただ一点断っておくと、ディスクブレーキの導入、フレーム、ホイールのエアロ化や軽量化、それにパワーメータの普及が私たち一般のサイクリストの危険性を高めているかといえばそうではないだろう。

むしろ、ソロや少人数のグループで走るサイクリングではよりクイックに効くディスクブレーキは急な状況変化に対する危険回避に大いに貢献するだろうし、毎日自転車通勤している人は雨の日のディスクブレーキの制動能力に大いに助けられていることだろう。エアロ化も軽量化もパワーメータもスポーツを楽しむ点では大いに貢献している。自転車レースが危険化しているのは少なくともレースレベル以上での話だろう。

開発側もプロ選手たちもパワーとスピードにこだわりすぎ、偏った取り組みをしている結果としてプロレース界は危険にさらされているというわけだ。

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